David Daily1997年製のハンドメイドなクラシックギター。この楽器との出会いは実に不思議なものだった。
母を見送って、なにか形見のようなものが欲しくて、多少価値のある楽器を探しに店を巡る予定だった一軒目のクラシックギター専門店でこの楽器はわたしを待っていた。
わたしはレフティで、指板を右手で押さえて左手で爪弾く、つまり人と反対の構えで弦も通常のギターの逆さに張って弾く(通常通りの弦を左に構えて弾くレフティプレイヤーもいるが私はすべて逆)。
わたしが来店したときは、すでにこの楽器を試奏している客がいて、わたしは他の楽器を試そうと、紹介された楽器を左に構えた。その途端、店員の顔が一瞬驚いたようにみえた。
試奏したお客が買わずに帰ると、その店員は、すぐさまその楽器を手にし、ちょっとまってくださいこのギター、左用に用意いたします。と。
クラシックギター、それも高級楽器に左用というのは基本的にはない。というか見たことがない。
そもそも右のギターを試奏のために左に張り替えてくるなんてどこの楽器店だってやるはずがない。
しばらくするとその楽器はほんとうに左用に弦を張り替えた状態でわたしの前に再登場した。
そんなバカなことが。ギターの弦はナットいう溝を通して張られるのだが、これは太い弦から細い弦、溝のサイズは均等でない。なのに、そんな簡単に張り替えて持ってくるとは??
ギターというのはお国柄がもろに出る。ドイツ製は威厳がありそれはそれは説得力があるが、ポピュラー音楽など許してくれなさそうな印象、イタリア製はカラカラと鳴るが軽薄で太さは感じらない、面白いのはアルゼンチン製でホセヤコピという工房があるのだが、まるで弦を何年も張り替えていないような、まさにカルロス・ガルデルが映画でボロンと弾いているような音がする。
このデビッドデイリーはアメリカ生まれで、ロスアンジェルスギターカルテットのアンドリュー・ヨークが弾いていて人気があったらしい。値段は多少高価だったが、その値段に見合った実にピントの定まった、でも偉そうでもなく、軽薄でもない、頭の良さそうだけどちょっとずる賢い「アカデミックなアメリカ」って音色がして、ポピュラー音楽しかやらないわたしには最適な楽器だった、それがなんと左利き用=わたし用として現れたのだから、他の店を廻る用事はもうなくなった。
喜び勇んで持ち帰ってこの楽器を見てみると、左の人しかつかないところに傷が何本か入っていた。
この楽器は左用として店に引き取られ、とりあえずそれだと売れっこないから右用に張り替えたんでしょうね。で、ナットはそのまま保管してあったのでしょう。確か3日前に入ってきたばかりだと言っていたから捨てずにいたんでしょうね。
この状態のまま、何もしないでずっと使っている。ナットもそのままだ。
わたしの父親はわたしが音楽の仕事をすることにはずっと反対だった。
母はわたしが音楽の仕事をする頃には若年性アルツハイマーでもうおかしくなっていたから、応援していたかどうか、わからない。
なのでわたしは両親に演奏をきいてもらったことがない。
でも
これは母からのプレゼント、というか応援だったのだろうね。
表は杉、サイドバックはハカランダでセラック塗装、わたしのメイン楽器です。